一般社団法人 日本ホメオパシー医学会が主催団体となり、2012年9月14~17日の4日間に亘って開催された「第67回Liga国際ホメオパシー医学会大会」〈写 真1〉は世界32カ国から318名(海外122 , 国内196: うちJPSH会員164)の参加者を得て盛会裡に終えることができました。
Liga国際ホメオパシー医学会(LMHI :The Liga Medicorum Homeopathica Internationalis )は
ホメオパシーの安全性の確保と発展を目的として1925年に設立された国際医療団体です。会員は近代西洋医学の教育を受けた医師、歯科医師、薬剤師のみです。加盟国は70カ国にのぼり、10000名以上の会員で構成されています。毎年各国加盟国が担当して国際大会が開かれています。今年で67回目 となります。
当学会は2002年には「Liga国際ホメオパシー医学会(LMHI)」に加盟し、2004年には東アジアで初となるホメオパシーの国際学会のホスト国 を務めるべく立候補しました。そして、遂に2012年、日本においてのみならず、世界各国においてホメオパシーが新しい歴史を刻みはじめる上で極めて重要 なメルクマールと成り得る本大会の開催が実現しました。
東アジアで初めての大会となった本大会のテーマを「和(Harmony)」と定め、西洋文化と東洋文化の「和」、ホメオパシーと現代医療における 「和」、世界各国参加者の人と人との「和」、そしてなにより「生老病死」からとらえて「こころ」「からだ」「いのち」の和、調和の実現を目指しました。東
アジア初のホメオパシー医療従事者向けの国際医学会を開催することで、日本においてもホメオパシーを西洋医学にもとづいた現代医療体系に取り入れる有用 性・有効性を広く医療従事者が理解し、ホメオパシーにおける治療水準の向上にも大きく貢献することを目的としました。これらによって、これまで欧米を中心
に普及してきたホメオパシーが日本を発信地として広くアジアに普及し、東洋の医学との能動的連携や近い将来、統合医療の分野においてホメオパシーが重要な 役割を担える存在となることを当学会の活動目標の一つに掲げました。
参加国は32カ国(Argentina/Armenia/ Australia /Austria /Bangladesh/ Belgium/Brazil/CzechRepublic/Ecuador/Estonia/France/Gambia/Germany/
Greece/Hungary/India/Italy/Japan/Mexico/Nigeria/P.R.China/Pakistan/ Serbia/Slovenia/South Africa/Spain/Switzerland/Thailand/
The Netherlands/ U.K./ U.S.A. /Ukraine
に及び、発表数の合計は 93題でした(内訳:招待講演14、シンポジウム13、口頭発表43、ポスター発表は21)。プログラムは午前中が主に基調講演と招待講演、午後からはシンポジウム、口頭発表があり、歯科医師部門はグループでの発表がありました。
基調講演は大会長である帯津良一先生〈写真2〉とLMHI会長の Jos? Matuk先生〈写真3〉でした。帯津良一先生は30年に亘りホリスティック医学を目指した医療に取り組まれ、その中でホメオパシーがどのような役割を 担ってきたか、またこれからどのような可能性があるかについて講演されました。またJos?
Matuk 先生はLMHI加盟70カ国におけるホメオパシーの現況について講演されました。連日午前中を中心に、海外から8名、日本国内から3名の招待 講演がありました。
【海外からの招待講演
1、ホメオパシーにおけるエビデンスに基づいた医学(EMB)という観点から、王立ロンドン統合医療病院の院長であり、英国女王のホメオパシー主治医でも あるPeter Fisher先生(写真4)が「Current Scientific Research in Homeopathy: An Overview」と題した講演で最新のホメオパシーの科学的研究を詳細にお話しされました。
2、ベルギー連邦政府のホメオパシー委員会会長Michel Van Wassenhoven(写真5)は「Clinical Verification of Homeopathic Symptoms Using Evidence Based Homeopathy」と題する講演を行われました。ベルギーでは国民の6割以上がホメオパシーを認知し、全医師の5%にあたる3万人の医師がホメオパ
シーを統合的に用いています。今回はエビデンスに基づいたホメオパシーの教育についての講演でした。
3、プルービングに関する世界的な第1人者で南アフリカのダーバン大学教授のAshley Ross先生による「Scientific Accountability in Homoeopathic Provings ?Methodological Insights into the Experiment」では、新しいレメディに関するプルービングの実践や研究についての講演がありました。
4、ホメオパシーの実践という立場から、ドイツのホメオパシー専門医の第一人者でドイツ政府からの勲章を受けておられるWolfgang Springer 先生の「Oligosymptomatic Cases and Rare Remedies」では、いかに難しい症例であっても、その症例に対して有効なレメディを選択し得る可能性があり、その為の戦略があるという教育的な講演
がありました。
5、今大会のテーマである「和(Harmony)」に関連した発表として、JPSHの海外講師でもあるグラスゴーホメオパシー病院(英国)のBob Leckridge先生による「Harmony Through Integration」がありました。
6、日本独自の精神療法である森田療法の第一人者で国際森田療法研究会議代表の北西憲二先生による「Morita Therapy and Homeopathy」の講演がありました。
7、心身の調和から自然、特に日本の自然を題材に、日本の心身医学におけるリーダーである関西医科大学心療内科教授の福永幹彦先生による「The Nature of Japanese Islands and the Japanese Psychosomatic Medicine」も大変興味深い内容でした。
8、これからの医療におけるホメオパシーの重要性を踏まえ、日本における統合医療の最高指導者である日本統合医療学会名誉理事長の渥美和彦先生(東京大学 名誉教授、写真6)による「Integrative Medicine-Emergent in the 21st Century Field of Medicine」という素晴らしい講演がありました。
9、獣医師からの講演では、国際獣医師ホメオパシー団体の会長である英国のPeter Gregory先生による 「Harmony and Chaos: The Cancer Miasm and Carcinosin in Animals」
10、米国のShelley R. Epstein 先生による「Case Reports, Case Series, and Clinical Trials in Veterinary Homeopathy」の講演がありました。
11、薬剤師としてSteven Kayne先生による 「Patientium Homeopathicus - A Case Study」という興味深いで演題でした。
これら、7カ国の世界的なホメオパシー、統合医療、心身医学分野のそれぞれ第一人者による招待講演は非常に実り多いものとなりました。
一方シンポジウムでも、世界中の国々のホメオパシー専門医による多彩なトピックスについて熱心に発表が繰り広げられました。
1)Politics in Homeopathy
「European Standard for the Provision of Homeopathic Medical Services」
Thomas Peinbauer (Austria)
「Increasing Positive Media Coverage for Homeopathy」
Sara Eames (U.K.)
2)Homeopathy in Integrative Medicine
「Finding Effective Remedies in Clinical Practice by Auriculohomoeopathy」
Charles Lee (Australia)
「The Effect of Rhus tox. on Restless Leg Syndrome in Dialysis Patients」
Akira Kawashima, Takahiko Sato (Japan)
3)Approaches to the Patients with Allergy
「Homeopathy, Evidence Based Medicine and Allergy. The example of Arsenicum Album」
Michel Van Wassenhoven (Belgium)
「Homeopathy for Japanese Cedar Pollinosis: A Randomized, Double Blinded,Placebo Control Trial」
Koji Hozawa, Tsuyoshi Kitanishi, Saori Tamba, Ryouichi Obitsu, Ronko Itamura,
Tatsutaka Yamamoto, Hisako Takeda, Hideki Ishijima, Akihiro Ishibashi, Keiko Kobayashi,Misaki Fukushima, Kaoru Kobayashi, Hiroto Koike, Yuuko Kawashima, Nahoko Mita, Mari Doi,Katsuhiko Fukuda,
Keiko Shirotani, Toshiyuki Watanabe, Ayumi Horie (Japan)
4)Approaches to the Patients with Psychiatric Disorder
「Olibanum Sacrum: From the Autistic Withdrawal to the Pathological Fusion」
H?l?ne Renoux (France)
「Homeopathy for Thirty-one Depression Cases Using a Three-Step Indication
of Recovery」
Ronko Itamura (Japan)
5)Homeopathic Education
「Use of LM/Q Potencies in Atopic Dermatitis」
Renzo Galassi (Italy)
「A Case of Idiopathic Thrombocytopenic Purpura」
Ulrich D. Fischer (Germany)
6)Homeopathic Practice by Pharmacists
「Homeopathy Around the World ? A Legal Perspective」
Lee Kayne (U.K.)
また16日午後は同様に、ブラジルのGeraldo Ribeiro 先生と Gloria Andr? Feighelstein 先生、日本からは福岡博史先生と神房次先生によって、歯科医師によるホメオパシーの取り組について発表と活発な議論がなされました。
4日間の大会中、それぞれの発表に対する質疑応答も多くなされ、その意味に於いても本大会は各国のホメオパシー研究者の交流の場として、大変有意義なも のとなりました(写真7,8)。また研究にとどまらす、交流の場として休憩時間や、朝開会前の、帯津先生による気功などでも行われました。
ここ数年、日本に於けるホメオパシーを取り巻く状況には非常に厳しいものがあります。とりわけ、2年前に“医師ではないホメオパシー治療者(自称ホメオ パス)”によって惹き起こされた死亡を伴う医療事故は、単に医療関係者のみならず、マスメディアを通じて多くの日本人にホメオパシーに対する否定的見方を
抱かせる結果となりました。このような状況下で敢えて東アジア初となる、医師、歯科医師、薬剤師によるホメオパシーの国際大会を開催したことは以 下の2つの重要な意義があると考えています。
1つ目は加盟70カ国から成るLMHIの科学的、臨床的な発表を日本ホメオパシー医学会のメンバーだけでなく、広く日本の医療従事者に知って貰うこと。 2つ目は日本文化に根差した私たち日本人がどのようにホメオパシーを理解し、西洋医学に基づいた現代医療と“調和・Harmonize”させることによっ
て如何にして統合的に実践しているのかを諸外国のホメオパシーの治療者に知って貰うということです。
私たちは本大会を通じて、ホメオパシーを俯瞰的視点から理解することが現代医療との有機的な“調和・Harmonize”、統合をもたらし、まさにそれ こそが未来の医療へと繋がるパラダイムシフトと成り得ることを確認し合いました。そして、このパラダイムシフトこそが既存の医療の枠組みを越え、文化・社 会、延いては人類の幸福に貢献できるものであると確信するに至りました。
そこで、「第67回Liga国際ホメオパシー医学会大会」の閉会式に於いて“2012奈良宣言 ”(写真9)の提案を行いました。そして、その宣言は満場一致で採択され、LMHI国際会議に参加した各国代表の署名を得ることができました。(写真10)。
この大会が日本における新たなホメオパシーの歴史の扉を開いたように思います。
現在、世界の80カ国以上でホメオパシーが通常の医療の一つとして用いられています。世界保健機関(WHO)は2001年、ホメオパシーを広く世界規模に 用いられている医療体系として認め、多くの国で医療保険に組み込まれていると報告しました。また2009年ホメオパシー薬に関する安全指針についての決議 を行い、翌 2010年に “Safety issues in the preparation of
homeopathic medicines”として発刊しました。今大会開催に合わせ日本語訳「ホメオパシー薬の調製と取扱いに関する安全指針」(堀江亜由美、板村論子監訳)を 学会として出版いたしました。残念ながら日本ではまた医薬品として認可されていないこともあり、安全に取り扱われる以前の段階です。一方治療者に関しては
国によって異なる規制があり、フランス、イタリア、スペイン、オーストリア、ロシアなど17カ国では医師のみ限定されています。ただイギリスやドイツ、ス イスなどは医師の資格を持っていない治療者(ホメオパス)もいるため、これらの国々では必要以上に現代医療を遠ざけるケースが発生しています。そのことで
ホメオパシーへの逆風が強くなっているのは事実です。特にイギリスではホメオパシーへのバッシングは強く、国民健康保険の適用を制限しようとする動きがあ ります。ただそれでも日本の現況とは大きな隔たりがあります。日本にはホメオパシーに関する法的規制が存在せず、行政による治療者の峻別がなされていませ
ん。またホメオパシー薬は医薬品として認められていません。そのため副作用がなく安全で、サプリメントや健康食品という範疇で、ホメオパシーがどのような 治療であり、その安全性や危険性を論じないままに、ホメオパス養成の民間団体やスクールが乱立しているのが現況です。日本では諸外国と違い、ホメオパシー
の正しい理解から始まり、その普及に至るまでには超えないといけない問題が多くあります。なによりも「正しいホメオパシーへの理解」を一人でも多くの方に 普及していくこと大切です。その目的のために大会前に京都で市民公開講座を開催しました。最初に川嶋朗先生が「世界のホメオパシーについて」を講演され、
そのあと女優の草笛光子さんと帯津良一先生による「ホメオパシー問答」の対談があり、150名以上の一般市民の方の参加がありました。参加者全員に当学会 として小冊子「正しいホメオパシーの理解のために」が配布されました。このような活動を重ねていくことによって一般市民への啓蒙は重要です。例えばスイス 政府連邦内務省 ( EDI/DFE )は、1998年より5年間、暫定的に、ホメオパシーを含む5つ
のCAMを、健康保険制度に組み入れ、それらのCAMに 関する評価プログラムを設定しました。しかし2005年、Lancet にスイスのShangらの論文が発表された後に、政府は健康保適応からホメオパシーを外したのです。その後2009年国民投票によって再度健康保険適用が 要求され、完全に2012年5月
から適応が再開されています。その根拠として、スイスではホメオパシーの有効性を政府自体が認めています。具体的には専門家たちが、スイス政府の評価プロ グラムにもとづいた、ホメオパシーの有効性・臨床実績・妥当性・安全性・経済性について検証し、2006年11月にドイツ語で 出版しました。その後Shang 達の 論文に再考察が加えられる形で部分改訂され、2011年12月に英語で出版
されたものがあります。従来的評価法と異なり、このHTA(健康技術評価)報告書は、統計学的調査 法のみならず、観察的調査法・改善事例・縦断的コホート調査法を含んでいいます。参考文献として有用です。
今回のホメオパシーの国際大会が一人でも多くの医療関係者が「ホメオパシーがどのような医療であり、どの様な可能性があり、そして、これからの医療にど の様な貢献ができるのか」という問題を考えるきっかけになることを期待しつつ、日本ホメオパシー医学会会員一同力を合わせ、日本に於ける「正しいホメオパ シーの普及と発展」に更なる努力をしていきたいと思っています。